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このWEBサイトと調査について
1.国内にくらすHIV患者の数
2.HIVのイメージ~感染を知る前~
3.どのようにHIV陽性と知ったか
4.HIVの治療~通院・服薬・医療費~
5.必要な情報をどうやって得るか
6.周囲の人達との関係
7.仕事・お金・人生設計
239人のHIV陽性者が体験した調査と告知
長期療養時代の治療を考える
人とつながる社会とつながる
長期療養生活のヒント
関係団体のご紹介

 

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 長期療養が可能になったいま、HIV陽性者はどのように医療とつきあっているのでしょうか。

◆治療の進歩による変化
 日本では、他の先進諸国並みに医療が整っており、抗HIV薬による治療を受けることができます。また、HIVの診療ができる医療機関は拠点病院やHIVに関する専門性の高いごく一部のクリニックに限られますが、一定の医療体制が整っています。かつてはHIVに対する治療法がなく、多くの人がエイズを発症して命を落としていました。しかし現在の医学では、1日に1~2回の服薬を続けることで、長期的にウイルスを抑えることができるようになりました。まだ完治することはできませんが、HIV陽性であってもきちんと治療を続けることで、HIVに感染していない人と寿命がそれほど変わらなくなってきています。ただし、現在でもエイズ発症によって初めてHIV感染を知る人は多く、そういった場合にはエイズ治療のために数ヵ月の入院を要したり、何らかの障害が残ったりということもあります。
 HIV感染症が長期療養可能になったということは、長期にわたり通院や服薬を続けるということが前提となります。それでは、患者であるHIV陽性者にとって、HIVの治療とはどのようなものなのでしょうか。2009年に発表された「HIV陽性者の生活と社会参加に関する調査報告書」によると、回答者の通院頻度は95%の人が1ヶ月〜3ヶ月に1回で、約8割が服薬をしていて、そのほとんどが1日に1回か2回となっています。医療の進歩により、以前よりも患者の負担はずいぶん軽くなりました。
 また、私たちの調査で、最近1ヵ月の健康状態をどう感じるかを聞いたところ、7割以上の人が「とても良い・まあ良い」と回答していて、「あまり良くない」も25%いました。きちんと比較をすることができませんが、長期療養時代以前の1980年代~90年代前半には考えられないような回答比率だろうと思いますので、ここにも大きな変化があります。


◆どのように通院先を決めているか
 私たちの調査では、医療機関を変えた経験のある人が3割強いました。また、現在の医療機関に通っている理由「通院の決め手」について聞いたところ、「専門性が高い」「最初に行った病院だから」「主治医の対応」「看護師・コーディネーターの対応」などが比較的多くあがりました。特に優先する決め手を3つに限定した場合は、「通院距離」、「他の診療科の受診」、「ソーシャルワーカーの対応」「土日の診察」などもより上位にランクされています。また、陽性とわかってから5年以上/5年未満、医療機関を変えた経験の有/無、東京/東京以外などによって異なる傾向があることもわかっています。
 また、「エイズ治療拠点病院アンケート調査報告書2010(PDF)」によると、全国に300箇所以上ある拠点病院の中でも、実際にHIVの診療条件が整っている病院は限られていることがわかっています。仕事をしながらの通院や、通院にかかる時間、HIV以外の病気の治療などでは課題があります。また、自分にとってより良い医療環境を求めて行動をとろうと思えばとれる大都市の一部と、そうでない地方の環境の差にも今後の注目が必要です。


◆治療の価値と負担をどう考えているか
 21世紀に入ってからも抗HIV薬の開発は進み、より副作用の少ない薬が登場しました。他の病気の治療との兼ね合いや、薬剤耐性ウイルスなどの問題がなければ、より副作用の少ない薬を選択することができるようになっています。また、長期にわたり服薬を続けることによる副作用や、生活習慣病リスクの増加など不透明な部分もまだあり、今後のさらなる研究開発が期待されています。

 私たちが行った調査では、通院・服薬をしている人の多くが、服薬することの価値を感じていて、ほぼ毎日服薬ができています。しかし、すでに服薬をしている人よりも、まだ服薬を始めていない人の方が、服薬に対する負担感が強いという傾向が見られます。別の調査では、副作用の少ない抗HIV薬が出ていることが、事前にあまり知られていないということもわかっています。実際に服薬している人よりも、服薬していない人は実感がない分だけ、ずっと飲み続けなければならないとう精神的プレッシャーや、生活と服薬がうまく折り合うのかという心配などが大きいのはないでしょうか。

◆身体障害者手帳と医療費
 長期療養を可能にするもう一つの大きな要素が医療費です。特に服薬を始めると、健康保険を使って3割負担した場合に一月に約6万円かかります。しかし、CD4などの一定の基準を満たすと免疫機能障害として障害者手帳を取ることができ、医療費の助成を受けることができます。
 多くの人がこれらの制度を利用して、生活に支障がない程度にまで医療費負担を軽減しています。これらの手続きにあたっては、もちろん個人情報は厳密に管理されていますし、代理人による手続きなど運用面での配慮がされている自治体もあります。しかし、中には、申請窓口である役所に親戚がいるから手続きをしたくない人や、「障害者である自分」を受け入れ難いと思ったり、「国のお世話になるのはいや」と思う人もいます。
 私たちの調査では、制度の変化による経済的負担が増えることを、80%以上の人が予測しており、かつ不安に感じていることがわかりました。多くの人にとっての長期療養は、社会福祉制度に基づいて医療費が軽減されることではじめて成り立ちます。制度の存続についても、今後より注意深く見ていく必要があるでしょう。

 

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